恋愛を絶対のもの

答えないでいると、「あれはね、錯覚なんだよ。また、どこにでもころがっているものなんだ」「・・・・・・・・・」「ぼくはね、これから娘を連れもどしに行くところなんだ。ぼくの反対を押し切って結婚した娘をね」「どうしてですか?」「すでに娘はその男への熱を醒ましている。相手もそうなんだ。相手は女を作ってその女の家に入り漫たりになっている。娘は娘で、勝手に遊びまわっている。娘が、ぼくにではなく、女学校時代の友だちに手紙をよこした。その友だちがぼくにその手紙を持ってきた。一日でも早く別れたい、とある。ダセイで、別れられなくて、ずるずるべったりといっしょにいる、と書いであった」..「ぼくが行くと、意地を張って、別れないと主張するだろう。強引に連れて帰るつもりだ「・・・・・・・・・」「若いころは、恋愛を絶対のものだと考えたがる。現実はそうじゃない。恋愛をしても・:・:、結婚して二年も経てば消滅し、あとは共どんな障害を乗り越えても添い遂げる価値のある相手か、見極めよ同生活が残るだけなんだ。たいせつなのは、その相手が共同生活者として良いか悪いかなんだ。それが、若い子にはわからん。人を見る目がないし、何しろ幻影を追っているから多少あたまが良くても目が見えなくなってしまっている」「最初、どうして結婚に反対したんですか?」「小才の利いたうすっぺらな男だった。目付きもへらへら笑いも気に入らなかった。つまり、ムシの好かん男だった。ぼくの反対はきわめて主観的で、説得力がなかった。ぼく自身、ぼくのわがままも入っているとひそかに考えていたくらいだからな」「こどもは生まれていないんですか?」「さいわい、こどもはいない。娘は再出発したがっている。それをぼくに言えんだけだ。強引に連れて帰る」最後に彼は、「キミ、男と女はな、結婚してから芽生える愛がホンモノなんだよ。若いキミには保守的過ぎるように聞こえるだろうが、これがほんとうのことなんだ」と述べ、「恋愛なんでものは、別れてしまえば他人なんだ。その点、親はいつでも親だよ」そう言った。ここでぼくは、恋愛の価値を否定しようとしているのではない。人生から恋愛を除くと、乾いた砂漠が残るだけである。人を恋したことのない人聞を、ぼくはあまり信頼しない。ただし、恋愛に過大な価値を与えるのは危険だということを言いたいのである。若いときは、「恋しい」という感情がすべてをおおって、相手の性格や欠点や自分との相性なのです。